2019年度大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』で、俳優の満島真之介さんが演じている吉岡信敬(よしおかしんけい)。早稲田大学の応援隊長として有名な人物ですが、歴史ファンにとっては馴染みがない人物かもしれません。
そこで今回は、吉岡信敬がどのような人物だったのかを、所属していた天狗倶楽部との関わりや、母校・早稲田大学中退後の動向も含めてご紹介します。
吉岡信敬とはどのような人物だったのか
吉岡信敬は1885年に生まれました。名前の”信敬”は正式には「のぶよし」と読むのですが、本人および世間からは「しんけい」と呼ばれていたと言われています。
彼の父親は長州藩士の家柄で、生誕地に関しては山口県の萩市、もしくは東京都の文京区(いずれも現在)の2つの説が存在します。少なくとも小学生になる頃には、信敬は都内に住んでいたと言われています。
1898年、13歳になると、吉岡信敬は早稲田中学校に入学して野球部へ入部します。選手としては上手ではなかったものの、試合の応援に関しては熱心だったと言われており、在籍していた早稲田中学だけでなく、早稲田大学野球部の応援にも顔を出していました。中学時代から髭を生やしており、後輩からは「髭のおじさん」というあだ名で呼ばれていたと伝わっています。
1905年、20歳になった吉岡信敬は早稲田大学応援隊を結成、隊長となり活躍しました。中学時代から生やしていた髭から「虎鬚彌次将軍(とらひげやじしょうぐん)」と呼ばれており、東京都内だけでなく、日本全国の学生の間でその名を轟かせています。学生以外にも信敬の名前は知られていたようで、日露戦争において活躍した乃木希典、昭和時代に「自称天皇」として知られた葦原金次郎(あしわら きんじろう)と共に「三大将軍」と呼ばれていました。
応援活動に熱中していた吉岡信敬ですが、園芸が趣味で、頻繁に草花いじりをしていたと本人も述べています。飛行機が好きな一面もあり、飛行会が催された際は、応援を放ったらかしにして飛行機を見に行ったという逸話も残されています。
吉岡信敬と天狗倶楽部の関わりについて
1909年、吉岡信敬の友人で、冒険小説家として当時から知られていた押川春浪(おしかわ しゅんろう)によって「天狗倶楽部(てんぐくらぶ)」というスポーツサークルが結成されると、吉岡信敬もこの団体へ参加する事となります。
天狗倶楽部の発起人だった押川春浪は大の野球好きとして知られており、彼の弟である押川清は日本のプロ野球創始者として知られる人物です。応援隊長として野球部を励まし、また一時期は部員でもあった吉岡信敬と押川は気が合う者同士だったのでしょう。
天狗倶楽部には、当時東京帝国大学の学生で、日本初のオリンピック選手として金栗四三と共に知られる三島弥彦も加入していました。1912年、三島弥彦がストックホルムオリンピックに参加するために渡欧する際、吉岡信敬は天狗倶楽部を代表して花束を贈呈したと言われています。
※参考:三島弥彦の父母や兄の三島弥太郎はどんな人?子孫の有無も解説
早大中退後の吉岡信敬の動向は?
1912年、27歳になった吉岡信敬は早稲田大学を中退。軍隊で勤務した後、読売新聞などで働いていたと言われています。
また早大中退後の1914年、天狗倶楽部の発起人である押川春浪が死去すると、吉岡信敬は天狗倶楽部と距離を置くようになります。その背景にあったのは、1906年に吉岡らの過激な応援によって、早慶戦が中止になった事だと言われています。
1903年に初めて開催された早慶戦は、学生野球の最高峰を決める大会として、当時から大人気のイベントでした。これに伴って吉岡信敬ら応援団も活発になりますが、やがて早稲田の学生が福澤諭吉の邸宅の前で、慶應義塾の学生が大隈重信の邸宅前で万歳を行うなど、両校の応援団の振る舞いが問題視されるようになります。
1906年、早慶両校の当局は早慶戦の中止を決断。1925年まで開催される事はありませんでした。2校の関係も修復不可能と言われるほど悪化してしまい、吉岡信敬はこの点に責任を感じていたと言われています。天狗倶楽部のメンバーの多くは早稲田の野球部員であり、彼らと早大を中退した吉岡信敬の間柄を取り持っていた押川春浪の死は、吉岡を天狗倶楽部から遠のかせる遠因になったと言われています。
その後の吉岡は目立った事跡を残しておらず、1940年に57歳で亡くなりました。
まとめ
吉岡信敬がどのような人物だったのかを、天狗倶楽部との関わりや早大中退後の動向も踏まえながらご紹介しました。
いわゆる「バンカラ」な学生の代表格として、当時の有名人であった吉岡信敬。早大中退後の動向は殆ど明らかになってをらず、晩年の彼が何を考えていたのかは謎なだけに、かえって興味をそそられる人物でもあります。
大河ドラマ「いだてん」では、俳優の満島真之介さんが吉岡信敬を演じます。満島さんがどのような吉岡を演じるのか、今から楽しみですね。
※参考:金栗四三ってどんな人?年表や子孫も簡単に解説!